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ウクライナを侵略する独裁者と、ミサイル発射を繰り返す独裁者が、世界を一段と脅威に晒(さら)す「悪魔の取引」(米上院議員)に踏み込んだのか。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記がロシア極東のボストーチヌイ宇宙基地を訪れ、プーチン露大統領と会談した。
会談結果について、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は「重大問題と協力事項で満足な合意と見解の一致をみた」と報じた。軍事協力の強化・拡大で合意したとみられる。
そうであるなら、許されざる軍事結託である。日米韓を中核に、国際社会はこれを抑え込まなくてはなるまい。
米政府高官が「北朝鮮が対露軍事支援に踏み切れば代償を支払うことになる」と新たな制裁を示唆したのは当然だ。松野博一官房長官は「懸念を持って注視している」と述べた。米韓と連携して対処すべきである。
露朝を近づけたのはウクライナ侵略の長期化だ。ウクライナの抗戦で苦境に陥ったロシア軍は、不足している砲弾など武器・弾薬の供給を北朝鮮に期待する。北朝鮮の兵器は大半が旧ソ連製なので好都合だ。
北朝鮮は見返りに軍事偵察衛星の打ち上げや原子力潜水艦の高度な技術の供与を望んでいる。北朝鮮は5月と8月、軍事偵察衛星の打ち上げに失敗した。プーチン氏が会談場所に宇宙基地を選んだのも、金氏の意向に配慮したからだろう。
露朝の軍事協力が強化・拡大されれば、日本の安全保障に重大な影響を及ぼす。もちろんウクライナの戦闘はさらに激化することになろう。
そもそも北朝鮮を相手とする武器の調達や供給は、ロシア自身も賛成した国連安全保障理事会決議の明白な違反だ。安保理常任理事国のロシアが違反を承知で、なりふり構わず北朝鮮と結ぶことは認められない。
露朝の行動がより先鋭化すれば、それだけ両国の国際的な孤立が深まるばかりだと知るべきである。
会談では、ロシアが侵略で不足した労働力の供給を北朝鮮に要請したとの観測もある。プーチン氏が金氏を頼りにする構図は、従来の露朝関係が逆転したものだろう。これも大義なき侵略に走ったプーチン氏が自ら招いた結果である。解決策は露軍の早期全面撤退しかない。
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2023年9月15日付産経新聞【主張】を転載しています